本研究では、第二言語習得と心理言語学を融合させた視点から、「言語と認知プロセス(cognitive processes)の関連性」の研究において新たな実験方法として眼球運動測定をバイリンガルの読みの研究に導入し、バイリンガル・プロセスモデル構築を試みる。初年度に購入したアイトラッカーTobii T60上で、21年度は日本語と英語のテキストの読解実験を作成し、バイリンガル(日本人英語使用者)による日本語と英語の文レベルの読みを比較したところ、以下のような結果となった:(1)先行研究と同様に、優れた読み手は眼球停留回数が少なく(サッカードの幅が長く)停留時間が短い、(2)同一実験参加者による日本語(第一言語)英語(第二言語)の眼球運動は傾向が似ている、(3)英語のリーディングストラテジーが見られる(例:最初の文を読み直す)。これらの結果は慶応大学Hiyoshi Research Portfolioにてポスター発表を行った。眼球運動実験についてイギリス・エセックス大学心理学部の研究者と意見交換した結果、Tobiiは実験実施やデータ処理が行いやすいが、データの確実性という点において他の装置が勝る可能性も示唆されたため、今後調査する必要がある。バイリンガル・プロセスのモデル化を試みるにあたり、今までの蓄積データの分析から母語とその他の言語の関係を総括的にみるマルチコンピテンスの観点で以下のような結論を得て、国際研究会等で発表を行った:(1)単語認知スキルは文字の種類や文字と音韻の対応規則性によって発達する、(2)単語認知スキルは第一言語およぶ第二言語で共有されるため、それら2言語の表記法の類似性は第二言語の読みの効率性において重要な要因となる。よって日英バイリンガルは日本語のみ、あるいは英語のみを話す単一言語の話者のどちらとも違う認知プロセスを持つ、といえる。今年度の成果を裏づける単語認知実験の眼球運動計測のデザインを今後改良し、実施してきたい。
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