第二言語の言語知識や使用経験が増えるにつれて、バイリンガルの認知は二つの言語に影響されながら確立され、言語の使用状況によって柔軟に変化することがわかってきた。本年度は昨年度までのアイトラッカーを使った眼球運動調査を発展させ、英語多読プログラムに参加した学生の英語を読むときの眼球運動がどのように変わっていくかについて、新たな実験調査方法も取り入れてデータの多様化を目指した。Gradedreadersなどの英語学習者向けの本10万語以上を読む前後で、英語の文章の読み方が変化したかどうかを調べた。結果、読む速度は速くなり、注視点が減少した。多く読んだ学生ほど、注視点の間隔が伸びる傾向が見られた。また、イギリスに住む日英バイリンガル児の読み書きの調査では、プリスクールから小学校に上がったところ(4~5歳)で家庭の外での話し言葉の英語が顕著に発達し、日英語の読み書き能力の差も大きく開いていくことが示唆された。家庭での日本語の読み聞かせやかなのドリルには興味を示すので、親の積極的な働きかけが大きく子どものバイリンガル発達に影響することがわかった。昨年度より、進行していた英国エセックス大学の共同研究者との、日英バイリンガル学生を対象にした絵と文字(漢字・かな・アルファベット)の認知プロセスの違いを調査する研究について、バイリンガリズムの国際学会で口頭発表を行った。今回の語彙産出タスクの実験では、漢字は絵と同じように処理されるが、ひらがなによる音韻アクセスは抑制されにくい結果が見られた。対してアルファベットは抑制されやすくバイリンガルでもその傾向は見られた。以上これらの結果から多言語的・発達的に見たバイリンガルプロセスモデルの構築を進めた。
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