本年度は、2選択肢以上の加入選択がある場合に自己選択バイアスを考慮した2Step推計を行うための推計モデルを構築した。次年度以降に、同推計モデルを用いた分析を行う予定である。加えて、本年度は、別途入手した通信サービスに関するアンケート調査データを用いて、通信市場の互換性とスイッチングコストに関する分析を行った。わが国の携帯電話市場では、携帯電話事業者がネットワークサービスのみならず、端末やコンテンツも併せてサービス供給を行っている。こうした垂直統合型の携帯電話サービスでは、ネットワークサービス会社を変更する際に端末の買換えやこれまで使いなれたコンテンツサービスが使えなくなるといったスイッチングコストが生じる。わが国の個票データを用いた実証分析の結果、端末変更に関するスイッチングコストがかなり高いことが示された。加えて、昨今わが国の携帯電話会社がとる長期継続契約に関しては、消費者の抵抗が比較的小さいことなどが明らかとなった。また、携帯電話、固定電話、インターネットサービスプロバイダー(ISP)、ブロードバンドアクセス(BB)サービス、という4つの通信サービスのスイッチングコストの多寡を計測した結果からは、携帯、固定、ISP、BBサービスの順でスイッチングコストが小さくなることが明らかとなった。こうした分析結果は、今後の携帯電話市場の垂直分離型競争導入の議論や、各通信メディアを水平的に連携したサービスをどこまで許容するかという議論に基礎資料を提供すると考えられる。
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