マクロ経済へのショックは失業率を変動させる要因となるが、その影響は労働者の年齢に応じて異なり、年齢ごとの失業率の反応の違いは国によっても大きく異なる。たとえば、失業率が上昇する局面において米国の失業率はすべての年齢層で等しく上がっていくのに対して、フランスの失業率は若年層に集中する形で上がっていく。平成22年度の研究では、このような国ごとの違いは解雇規制や労働組合組織率などの国ごとの労働市場制度の違いにより影響を受けているのではないかとの仮説を検証することを試みた。これは当初の研究計画において、経済格差に影響を与える労働政策についての評価を行うとしていたことに沿うものであり、リスク負担の世代間格差に影響を与える労働市場制度を明らかにしようとするものである。OECD諸国のマクロデータを用いた実証分析の結果、解雇規制が厳しい国や労働組合によって労働契約が決められる労働者の比率が高い国においては、失業率上昇局面で失業率の上昇が若年労働者に集中する傾向があることが明らかになった。これは労働者保護を目指す労働市場制度が中高年労働者を中心に保護する傾向があることを示唆するものである。これまでの研究においても、労働市場制度が年齢別失業率に与える影響や若年失業率の変動が大きいことは指摘されていたものの、労働市場制度が若年失業率の変動の大きさに影響を与えることを指摘したのはこの研究が初めてである。この研究結果は川口大司・村尾徹士「年齢階層別失業率変動の国際比較」『経済研究』61巻2号154-167頁として発表された。
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