本年度では、前年度に続き、中国物流産業と日系企業についてフィールドリサーチを進めてきた。個別企業の訪問調査に加えて、日系自動車企業の集積している広州市で、調査対象企業の物流担当者を集めワークショップを開催し、グループインタビューを実施した。一連の調査によって発見した事実を踏まえて、急成長の中国市場において、企業のロジスティクスシステム構築のプロセスと、ロジスティクスシステムのあり方を規定する要素の解明を目指している。一方で、物流産業の高度化は荷主企業のロジスティクス要素技術の採用やロジスティクス・オペレーション体制構築にいかなる影響を与えているのかという問題意識の下、中国物流産業のインフラ整備、基礎的能力、水運、陸運を中心に調査研究を進めてきた。本年度では、以上の調査研究から得られた知見を積極的にワーキングペーパーや論文にまとめ、社会に還元するように努力してきた。中国に代表される新興市場におけるロジスティクス戦略に関する蓄積はまだ十分でないため、地道な現地調査に裏付けられる本研究は、新興市場のロジスティクス戦略論の確立に資するものと考える。なお、本年度の当初の計画に盛り込まれた第3回中国日系企業のロジスティクスシステム実態に関するアンケート調査は分析に必要な回収率を確保する見込みが極めて低いうえ、第2回同調査から2年しか経っておらず、システム実態に有意義な変化が見られないものと判断して、アンケート実施を見送った。アンケート調査に代わり、より踏み込んだフィールドリサーチを行い、信頼性の高いデータの入手と分析に努めてきた。
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