研究概要 |
von Neumann環の構成法として, 離散群の確率空間への保測作用を材料とする方法が重要であるが, 構成されたvon Neumann環がいつ同型になるのか良くわかっていない. 古典的な結果によれば, 軌道同型な作用からは同型なvon Neumann環ができることがわかっている. 研究代表者は2008年度に, UCLAのPopa教授との共同研究で, 適当な条件下ではこの逆が成り立つという重要な結果を得た. すなわち, 自由群の射有限な作用から構成されるvon Neumann環から, 群作用の軌道同型類を完全に復元できることを示した. これはこの種の結果として初めてのものであり, von Neumann環の同型問題に大きなインパクトを持つものである. また, 自由群から生成されるvon Neumann環はとても強い意味での非分解性を持つことも示した. 自由群から生成されるvon Neumann環の同型類が, 構成に使われた自由群の階数に依存するかというのがvon Neumann環論における最大の未解決問題であるが, 上記の非分解性はこの未解決問題の解決に向けて何らかの役に立つのではないかと期待できる. UCLAのPopa教授とは引き続き, 自由群以外の群も扱った研究を行った. 他にも, 研究代表者単独で群SL(2, Z)の2-トーラス上の作用の研究を行い, この群作用が充実というエルゴード性よりはるかに強い非分解性を持つことを発見した. これはエルゴード理論における定理であるが, 証明手段としてvon Neumann環が使われている. von Neumann環と群作用・エルゴード理論の関わりは最近活発に研究されているが, この分野を扱った教科書は未だ存在せず, その存在が広く望まれている. 研究代表者はそれに答えるべく, 最新の知見を積んだ教科書の執筆を始めた.
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