研究概要 |
離散群と関数解析についての研究を行った.群のHilbert空間上の表現について考えるとき,ユニタリ表現に関しては美しい理論があるが,ユニタリでない無限次元表現はまったくとらえがたい対象である.考えている群が従順ならば,任意の一様連続な表現はユニタリ表現と相似(共役ともいう)になることが知られているが,その逆も成り立つかを問うのがDixmierの相似問題(1950)である.私は,スイス連邦工科大学のN.Monod教授との共同研究においてこの問題に挑戦し,部分的な解答を得た.特に,この問題の試金石とされていた自由Burnside群(従順でないことが知られている)にユニタリ化可能でない一様連続な表現が存在することを示した.論文はJournal of Functional Analysis, 258 (2010), 255--259に掲載された. 従順性の対極に位置する群の性質として,Kazhdanの性質(T)があり,それを強めたものにBurger--Monodの性質(TT)がある.私はそれをさらに強めた性質(TTT)を導入し,SL(n>2,R)とその格子がこの性質TTT)を持つことを示した.この定理の系として,これらの格子から従順群あるいは双曲群への擬順同型は有限の像を持つことが示される.性質(TTT)にはUlam型の問題に対する応用も見込まれる.この論文はJournal fur die reine und angewandte Mathematikに掲載予定である. 乗法性がεのノルム誤差を許して成り立つユニタリ「表現」のことをεユニタリ表現と呼ぶが,任意のεユニタリ表現が真のユニタリ表現の摂動として得られるかというUlam型問題に取り組み,上記(TTT)関連以外にもいくつかの興味深い結果を得た.この件に関して論文を準備中である.
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