研究概要 |
今年度は離散群の解析的近似可能性の研究を行った。小さい正数εに対して、群Gから距離付き位相群Uへの写像πがε-準同型であるとは、誤差εで積を保つときをいう、つまり、任意のGの元g,hに対して評価式d(π(gh),π(g)π(h))<εが成り立つときをいう。与えられたε-準同型が本物の準同型の摂動であるか否かを問うのがUlamの問題(1960)である。特に、UとしてHilbert空間H上のユニタリ作用素全体U(H)に作用素ノルムで距離を入れたものを考える。この場合のUlamの問題は、従順群に対しては肯定的に解けること、しかし一般には反例があることが知られていた(Kazhdan 1982)。私はM.Burger (ETHZ)及びA.Thom (Leipzig)との共同研究において次の事実を明らかにした:自由群を部分群として含む任意の群に対して反例が構成できるが、高階数単純Lie群の格子(これらは自由群を部分群として含む)などの場合は有限次元の反例は存在しない。その他にも関連するいくつかの定量的な研究を行った。 従順性は離散群の関数解析的取り扱いにおいて非常に有用な性質であるが、従順性を満たさないような群にも重要な例が数多い。そこで、従順性を弱めた弱従順性というものを考える必要が出てくる。私は上記の研究の他にも弱従順性の研究を行い、弱従順群の可換部分群に関する便利な構造定理を得た。これは、先行するHaagerup (1988)の結果とOzawa-Popa (2010)の結果を統合・拡張するものである。
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