理研RIビームファクトリ(RIBF)において偏極重陽子ビームを用いた重陽子-陽子散乱による三体力(核子間三体力)の研究を行う事を目的として、本年度は、重陽子ビーム加速に必要なビームラインの建設、測定器系の整備を行った。その一貫として、重陽子ビームの電荷量を測定するための装置「ハイパワーターゲットシステム用重陽子ビームストッパー」を製作した。この装置は、RIBF基幹装置の磁気分析器BigRIPSの第ゼロ焦点面に設置する仕様のものである。来年度4月、これらの測定器系を用いて250MeV/Aにおける重陽子-陽子散乱のスピン偏極分解能の測定行う予定である。 重陽子-陽子散乱による三体力の検証を行う為には、同散乱における相対論的な効果を把握しておく必要がある。相対論的な効果の検証を行うため、陽子-重陽子分解反応のQuasi-Free Scatteringの微分断面積の測定を、大阪大学核物理研究センター(RCNP)にて行った。Quasi-Free Scattering は、二体力(二核子間力)や三体力依存性が小さく、相対論的効果が最も良く効くと予測されている。現在、得られた実験データの解析を進めつつある。 理論面では、ポーランド・ヤゲロー大学のWitala教授等が核子当たり100Mev付近における相対論の効果を考慮した三核子系厳密計算の方法を確立した。また、彼らはカイラル有効理論による核力を用いて重陽子-陽子散乱の理論解析を行っている。 来年度は、RIBF、RCNPで測定して得られた実験結果と理論計算との比較を行う事によって、三体力の情報を引き出す事を行う。
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