理研RIビームファクトリ(RIBF)において偏極重陽子ビームを用いた重陽子-陽子散乱による三体力(核子間三体力)の研究を行う事を目的として、本年度は、250MeV/nucleonの偏極重陽子ビームを加速し、重陽子―陽子散乱の重陽子の全ての偏極分解能の測定を行った。本実験は、RIBFの次世代加速器SRCを用いた初の偏極重陽子ビーム加速であったが、偏極ビーム加速をするために必須である、シングルターン取り出しに見事に成功した。これにより、高偏極度ビームを得る事が出来たので、非常に精度の高い実験値を得る事が出来た。得られた結果と現実的な核力を用いた三核子系厳密計算との比較を行ったところ、重陽子の偏極分解能は、後方散乱角度において、現在の三体力では説明出来ない様な実験値と理論計算との違いがある事がわかった。 重陽子-陽子散乱による三体力の検証を行う為には、同散乱における相対論的な効果も把握しておく必要がある。これらの効果を見積もるため、理論面では、ポーランド・ヤゲロー大学のWitala教授等が核子当たり200MeV付近における相対論の効果を考慮した三核子系厳密計算の方法を確立した。RIBFで得られた重陽子-陽子散乱に関する計算を行ったところ、相対論的効果は見られない事がわかった。この事から、我々が見つけた実験値と理論計算との違いは、今まで考慮されていなかった三体力の特にスピン依存項に起因しているものと考えられる。この原因を追求する事を目的として、重陽子―陽子散乱のエネルギー依存性を見る為の実験課題をRIBF課題申請委員会に申請し、承認された。現在は、その実験準備を進めている。また、理論的には、250MeV/nucleon付近におけるカイラル有効理論による核力を用いて重陽子-陽子散乱の理論解析が進められつつある。
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