理研RIビームファクトリ(RIBF)において偏極重陽子ビームを用いた重陽子-陽子散乱による三体力(核子間三体力)の研究を行う事を目的として、一昨年、昨年度は重陽子ビーム加速に必要なビームライン、及び検出器系の建設を行い、250MeV/nucleon偏極重陽子ビームによる重陽子-陽子弾性散乱の測定を行った。本年度は、重陽子-陽子散乱のデータをまとめ、論文として発表した(Physical Review C誌)。250MeV/nucleonの結果から、重陽子-陽子散乱の高運動量移行領域では、二体力のみでは実験値を再現できず、また三体力の主要成分と考えられている藤田・宮沢型を考慮しても厳密理論計算(ファデーエフ計算)と実験値とに顕著な差が現れる事が判明した。この結果は、少数核子系分野で注目されるところとなり、アジア少数系国際会議において招待講演を行った(2011年8月、ソウル)。またこの結果を受け、エネルギー依存性を調べるため、本年度は300MeV/nucleonの同反応の測定も実施した。同測定について250MeV/nucleonの結果と併せて理論計算との比較を行ったところ、特定の運動量領域以下(3fm-1)では二体力と藤田・宮沢型の三体力を考慮する事により実験値をよく説明するが、それ以上の運動量領域では二体力、また藤田・宮沢型の三体力のみを考慮しても実験値を再現しない事があきらかになった。 これまでの予想では、核力の高運動量成分が反映される200-400MeV/nucleonの付近の核子-核子散乱は二体力の記述は正しく、また三体力の効果は小さくなると考えられてきたが、本研究で行われた重陽子-陽子散乱の高精度測定により、高運動量成分の三体力を含む核力の定量的な議論の必要性が示された。
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