本研究は走査トンネル顕微/分光法(STM/STS)によるグラフィンの磁場中電子状態の実空間観測を目的とする。測定には主に我々が独自に開発した超低温STM(ULT-STM)を用いるが、低温・磁場中でSTM/STS観測を行うためには、グラフィン上にSTM探針を誘導するための試料の微細加工が必要となる。昨年度はまず、そのために必要な環境を整えた。これにより他グループの装置に頼ることなく、歩留まりよく試料を自作できるようになった。作成した試料をSTM観測したところ、グラフィン表面が微細加工時に汚染されていることが分かった。しかし様々な洗浄方法を試みた結果、グラフィン原子画像のSTM観測に成功した。 一般にグラフィンには作成方法の違いによって2つの種類が知られている。ひとつはグラファイトを劈開して作成する劈開グラフィンで、もうひとつはSiC上に成長させるSiCグラフィンである。研究はまず劈開グラフィンからはじめて、2年目(今年度)にSiCグラフィンにも着手する計画であったが、計画を前倒しして、昨年度後半からSiCグラフィンの作成・研究を開始した。これまでに多層グラフィンの作成には成功し、STM観測においてその原子画像を確認した。 当初は伝導度測定可能なSTM用試料ステージの製作を計画していたが、その代わりに、そのような試料ステージを有すると同時に、STMと原子間力顕微鏡(AFM)の性能を併せ持った走査プローブ顕微鏡(SPM)を購入した。これは大きさや材質など、ULT-STMに組み込めるように設計されている。このSPMにより、同じグラフィン試料について伝導度特性、STMでは測定不可能な絶縁基盤上での試料の位置・形状、局所電子状態密度をその場で測定することが可能となった。
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