本研究は走査トンネル顕微/分光法(STM/STS)によるグラフィンの磁場中電子状態の実空間観測を目的とする。測定には主に我々が独自に開発した超低温STM装置(ULT-STM)を用いる。これは30mKに至る超低温、6Tの高磁場、超高真空という多重極限環境下で動作する世界的にも有数の装置である。一方、試料であるグラフィンの作成方法は母物質であるグラファイトを基板上に壁開して作成するトップダウン法と、基板上に結晶成長させるボトムアップ法の2種類があるが、今年度は主に後者によるエピタキシャル・グラフェンの作成と、その予備的なSTM/STS実験を行った。エピタキシャル・グラフェンは基板の影響を強く受けやすい一方、基板の広い範囲に渡って作成可能なため、よりSTM/STSに向いていると期待されている。 ところが我々の実験の結果、グラフィンは基板上に島状に孤立して生成し、必ずしも基板全面に渡った均一な試料は作成されないことが分かった。より厚い試料を作成したところ、やはり層数の異なる領域からなる超薄膜グラファイトが生成されていることがSTM観察から明らかになった。その中でもより薄い領域でトンネル分光測定を行ったところ、2層グラフィンに対して理論的に期待されている状態密度が得られた。しかし磁場によるランダウ準位は観測されなかった。 一方、ULT-STMの測定の安定性を向上させるために、試料ステージに板バネによる固定を取り付け、さらにマグネットを最高磁場が14Tのものへの交換作業を年度末より開始した。これによってグラフェンの量子極限に至るまでの物性をSTM/STS観測できるようになる。
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