本研究は、近年報告されているポリチオフェン類の薄膜における異常磁気光学効果の発見をモチベーションとし、その実証とメカニズム解明を第一の目的としている。本年度は研究のスタートアップとして、ポリマー薄膜の磁気光学効果を定量測定するための実験系構築を中心に行ってきた。巨大な効果とはいえ、測定試料の形態は薄膜であるため、実験系は高感度である必要がある。現有設備として超電導磁石を所有しており、これとレーザー光を用いてファラデー効果を測定する実験系を構築したほか、それとは別に、一般にも安価で入手しやすい強力なネオジム磁石を用いた実験系も設計、構築した。これらの測定装置を用いて、既に巨大磁気光学効果が報告されているポリチオフェンのほか、導電ポリマーを始めとした他のポリマー材料薄膜に対してファラデー効果の測定を行い、磁気光学効果の大きさを性能指数(ヴェルデ定数)として定量的に求めた。特に、ポリチオフェンにおいて透過や反射といった光学特性がπスタック構造に起因していることに着目し、比較的新しいπ共役ポリマーについて測定・比較を行ったところ、PAE-1と呼ばれるポリマー材料の薄膜でポリチオフェン薄膜に匹敵する大きなヴェルデ定数が得られた。このポリマーは、透過可能な可視光の波長範囲がポリチオフェンに比べて広く、その点で利点を持つ。また、π電子共役鎖の平面性が高く、良好なπスタック構造を形成するという面でポリチオフェンと類似性を有しており、異常磁気光学効果の発生する物理機構にこれらポリマーの形成するπスタック構造が関与している可能性が強く示された。この結果は、π共役ポリマーにおける異常磁気光学効果現象の解明に対してだけでなく、磁気光学材料として応用するための材料開発の面での指針を与えるものとして重要な意味を持っている。
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