本研究はポリチオフェン類における異常磁気光学効果の報告に端を発し、その実証とメカニズム解明を第一の目的としている。昨年度はPAE-1と呼ばれるポリマー材料の薄膜でポリチオフェン薄膜に匹敵する大きなヴェルデ定数という結果が得られたが、本年度は引き続き、この材料における磁気光学特性の発現機構についての知見を深めることを目的として研究を行った。以前と同様の薄膜も含め、試料作成条件を様々に変化させ測定を行ったところ、予想に反して大きなヴェルデ定数は得られなかった。この結果では、薄膜における分子の凝集状態が物性を大きく支配している可能性を示しているものの、一方で膜の表面状態によって散乱光由来の依存が見られたことから、我々の実験手法による偽信号の可能性が排除できないことも示している。そこで、協力研究者であるベルギー・ルーバン大学のPersoons教授の研究室でも磁気光学効果の測定を行ったが、我々の結果とは大きく異なっていた。この数ヶ月で他の研究者も参入してきており、ポリチオフェン系の巨大磁気光学効果は確認されているようであるが、値は大きくばらついている。このため、上記協力研究者とともに連携をより密にして実験を行っている。 同時に、ソフトマテリアルにおける磁気光学材料を目指すものとし、常磁性体液晶の研究を開始した。この液晶は分子中にフリーラジカルが存在することで磁性を発生させると同時に、液晶性を兼ね備えるものである。この分子で非線形光学効果を測定したところ、通常の材料ではあまり見られない特異な挙動が観察された。この結果は、磁気光学効果とは直接関連しないものの、磁性有機材料の持つ風変わりな光学効果として、本研究の目指す磁性ソフトマテリアル光学材料開発における指針を与えるものとして重要な意味を持つ。
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