本研究は、ポリチオフェン類における異常磁気光学効果の報告に端を発し、他ポリマー材料の探索、磁気光学効果の実証とメカニズム解明を第一の目的として行ってきた。前年度までに本研究では、PAE-1と呼ばれるπ共役ポリマー材料の薄膜において、ポリチオフェン薄膜に匹敵する大きなヴェルデ定数を得ている。本年度は、協力研究者であるルーバン大学のPersoons教授の研究室から学生を迎えて発現機構に関して議論を行ったほか、これまでと同じシステム、異なるシステムにて磁気光学効果の検証実験を行った。この検証実験では、磁性材料である酸化鉄ナノパーティクルを透明ポリマーに混合させた試料でも測定を行い、いずれのシステムでも非常に妥当なヴェルデ定数を得ることができた。しかし、我々の以前測定したのと同種のπ共役ポリマー材料では、ヴェルデ定数のばらつきが大きく、また値も小さなものとなった。前年度の実験でも、膜の表面状態によって散乱光由来の信号の磁場強度依存が見られたことから、微結晶の状態などが信号に影響することは明白といえる。また、Persoonsらのごく最近の報告によれば、成膜時の条件により薄膜内部の分子の凝集状態が異なり、まれにドーナツ状の凝集構造を作ることで、円環電流を生じさせることが磁気光学効果の由来となっている可能性がある。このような物理起源の探索は今後も引き続き行う。具体的には、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡による微小構造観察を行う予定である。 加えて、ソフトマテリアルにおける磁気光学材料の新たな可能性として、常磁性体液晶の研究を引き続き行った。この研究では、第2次高調波発生において自発的に位相整合状態を示すという結果が得られた。磁気光学効果との関連は明確でないものの、新たな有機材料の示す非線形光学効果として、報告を行った。
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