研究概要 |
本研究では非従来型超伝導体における超伝導対称性および常伝導状態で見られる異常な量子状態の統一的な理解を目的とし,多重極限下における超伝導対称性と異常な量子状態を熱輸送係数および熱電係数により調べた.まず,β型パイロクロア化合物の圧力下比熱測定より電子格子結合定数,フォノン周波数の評価を行った.そしてその結果を用い,この系での超伝導転移温度の圧力依存性が統一的に説明できることを指摘した.また,低温構造解析の実験によりこの系共通の現象としてほぼ同じ格子体積で構造相転移が起こることが明らかとなった.これらの結果は非調和格子振動が存在する特異な超伝導の発現機構の理解に重要な情報を与えている.また平成21年度に引き続き,Yb化合物の熱伝導・熱電係数の実験を進めた.その結果,YbAlB_4とYbRh_2Si_2において,それぞれの物質における秩序ベクトルがQ=0とQ≠0という,かなり異なる量子臨界性をもつ可能性が高いことを指摘した.この結果は,両物質が同じ量子臨界性で理解できると主張している理論に再考の必要性を示すものであり,両物質における量子臨界性を考える上での重要な情報を提供していると考えている.一方,非従来型超伝導体に関しては,まず,CeCu_2Si_2の極低温熱伝導率を測定した.その結果,超伝導転移に伴う異常は見られなかった.このことから超伝導状態の詳細を調べるには,より純良化された試料が必要であることがわかった.そこで試料を純度の極めて高いUPt_3に変更し,その超伝導対称性を熱伝導率により調べた.その結果,超伝導対称性に関する重要な知見を得た.UPt_3は多重超伝導相をもつ非従来型超伝導体でありその理解が渇望されていたが,本研究によりその理解を進展させることが出来た.この結果については現在発表準備を進めている.
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