研究概要 |
よく体系化され膨大な応用のある光(電磁波)-原子相互作用による共鳴遷移現象との比較を念頭において,周期構造体と原子の相互作用による原子の内部状態の共鳴遷移現象を、特に低速原子と微小周期磁場構造を用いた実験を通じて研究した。大きく分けて,以下の2つの課題に取り組んだ。 (1)ミリメートルオーダーの周期磁場に室温程度の速度の漏れ出し原子ビームを通し,原子スピンのコヒーレント制御実験を行った。そして,原子の量子状態のコヒーレント制御が周期構造体を用いて可能であることを実証し,結果を査読論文として公表した。 (2)昨年度完成したレーザー冷却原子泉型低速原子ビームと,マイクロメートルオーダーの微小周期磁化パターンを持った透明磁性体薄膜とを相互作用させる実験を行った。透明磁性体薄膜表面でのエバネッセント波を使った原子ミラー技術を用いて,磁性体表面に原子ビームを衝突させずに反射することには成功したが,その時同時に起こすことを狙っていた原子の磁気共鳴遷移は観測されなかった。表面近傍マイクロメートル程度で原子を操作することは,ある程度予想はしていたがそれほど容易ではなく,さらなる研究が必要である。 (2)の困難を打開するための試みとして,マイクロメートルオーダーの表面周期磁化磁性体に漏れ出し原子ビームを相互作用させる実験と,固体表面への原子の吸着エネルギーを小さくし表面での非弾性衝突を抑える効果があると期待できるコーティングの研究とを行った。それぞれ着実に前進したが,マイクロメートルオーダーの周期場との相互作用による共鳴遷移を観測することにはつながらなかった。
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