3年間の本研究課題において、本年度は階層的モデル群の開発を主に行う計画である。まず、疑似予報システムの核となるデータ同化・初期摂動作成スキーム(pEnKF)開発は順調に進み、低自由度のモデルで検証した結果をまとめることができた(投稿準備中)。また、初期作業ではあるがpEnKFを低解像度の大気大循環モデル(AGCM)に組み込み、数か月程度の解析・予報サイクルを実行した。もう一つのベースモデルである線型傾圧モデル(LBM)については、観測から得られる全ての強制項を与えて定常応答を求めることで1979年以降の月々の大気循環偏差場の再現実験を実施した。この診断は準リアルタイムでウェブサイトにアップされるようにしており、気象庁の異常気象要因分析にも参考情報として用いられている。 AGCMとLBMを繋ぐ要素として、水蒸気を考慮しない乾燥大気AGCMを構築した。このモデル(NLBMと略)は、客観解析データから推定される非断熱加熱を与えることで、観測される平均場と変動をよく再現する。NLBMの応用として、今年度は加熱の年々変動がある場合とない場合でアンサンブル長期積分を行い、潜在的予測可能性の変化やテレコネクション・パターンの時間変動の違いについて解析した結果、今までよくわかっていなかった夏季のテレコネクションの励起について興味深い結果が得られた(投稿準備中)。また、現業予報プロダクトを用いて卓越大気変動の予測可能性を探ることも本課題でやるべき研究である。今年度は、気象庁が現業化前の検証として行った1982〜2002年のアンサンブル1か月予報のデータを詳細に解析し、夏季の帯状平均場の予測スキルが高いこと、それに伴う領域的な気温変化が無視できないこと、帯状平均場の予測は地域的な海面水温偏差が駆動していることを明らかにした。
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