3年間の本研究課題の最終年であり、前半は昨年度までに得られた以下の結果を論文として公表した。 (1)非線形力学コアおよびその線形化モデルであるLBMを用いて、夏季天候変動の代表的なテレコネクションであるCircumglobalパターンの強制過程を明らかにした。 (2)大気大循環モデル(AGCM)を用いた延長予報における新しい初期値化手法であるpEnKFを開発し、低自由度の系での有効性評価を終了した。さらに、AGCMを用いた1997-2000年の3年間についてのハインドキャスト実験でもその有効性を確認した。 盛んに報道されたように、2010年の夏は日本では猛暑となった。当初予定にはなかったが、この猛暑をもたらした要因分析は本課題に密接に関連すると考え、年度後半に急きょ高解像度AGCMを用いた多数の感度実験を行った。その結果、世界全体の夏季の昇温はほぼすべてが長期間の海面水温上昇傾向(簡単に温暖化と略)で説明できる一方、日本周辺域の昇温の2-4割が温暖化により、残りはエルニーニョからラニーニャへの急速な遷移などの短期気候変動に伴うものであったことが判明した。この結果は記者発表されていくつかの新聞でもとりあげられた。 本課題の遂行を通じて、AGCMからLBMまでの階層的な大気モデルを併用することで大気循環変動の理解に資する成果が得られることが分かった。今後は、より本格的な予報実験や大気海洋結合系を対象とする同様の研究を発展させる必要があると考えられる。
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