研究概要 |
地球型惑星のコア・マントルのサイズ,化学組成,酸化還元度は多様である.これは鉄の存在度や存在状態(珪酸塩・金属・硫化物)の違いとして捉えることができる.惑星内部の鉄の存在状態の違いは物質循環や固有磁場の発生を通じて表層や生命圏にも影響を与え,惑星の起源や内部進化のみならず表層システムの進化や安定性にも重要な要素と言える.惑星間の鉄の存在度や存在状態の多様性を理解するための第一歩として,原始惑星系円盤での惑星材料物質において鉄の総量がどの程度であったか,存在状態の異なる鉄が惑星形成直前にどのように分布していたかの理解が重要である.本研究では,原始惑星系円盤内で鉄の存在状態を変える主要化学反応である金属鉄凝縮や金属鉄の硫化反応の速度やメカニズムを室内実験で解明する.また,それらの反応が原始惑星系円盤内で充分に進行しえたかを検討する.当該年度は金属鉄凝縮実験を完了し,国際誌に論文投稿をおこなった.また,真空ゴールドイメージ炉を用いた金属鉄基板上での硫化鉄の核形成・成長実験をおこなった.500℃,水素圧1Paにおける反応速度は理想反応速度の0.02程度であることがわかり,原始惑星系円盤での硫化反応が速度論的に抑制されることがわかった.また,金属鉄表面を硫化鉄が全面的に覆う前に,硫化鉄が1ミクロン以上のサイズに成長することもわかり,原始惑星系円盤条件での硫化鉄形成に核形成が大きく影響することが初めて明らかとなった.実験データに基づくモデル計算をおこない,核形成と成長の速度論効果により,Fe/S比の異なる粒子が容易に形成されることがわかった.これは地球外物質にみられる金属鉄,硫化鉄の多様性を説明する可能性がある.その他,金属鉄凝縮実験において,1ミクロン程度の微粒子を基板上に凝縮させることに成功したため,この粒子を用いた硫化実験の出発物質にすることに成功した.
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