レーザー光を用いて物質の量子状態や量子ダイナミクスを直接操作し、物性や機能を制御しようとする量子制御(またはコヒーレント制御)に関する研究が近年精力的に行われている。申請者は波長の異なるフェムト秒光パルスを重ね合わせ、その相対位相を精密に制御した位相制御光による異方的トンネルイオン化とそれに基づいた分子配向制御を世界に先駆けて実現し、位相制御光と気体分子との相互作用は位相に強く依存する多彩な量子現象を示すことを明らかにした。位相制御光は従来の光とは本質的に異なった性質を持っているため、光の位相に関わる新しい量子現象の観測、さらに位相制御光を用いた物質制御の新しい方法論を提示できる可能性がある。 本研究課題の目的は、位相制御光と物質との相互作用による量子現象の探索をこれまでの気体分子から固体表面に展開することである。具体的には以下のとおりである。(1)位相制御光と固体表面および固体表面に担持された分子との相互作用によって引き起こされる量子効果を系統的に探索・分類し、総合的な理解をする。特に、十分に解明されていないフェムト秒パルスによるレーザーアブレーションのメカニズム解明を目指す。(2)位相制御光を用いた新しい方法論に基づく極限計測手法として、位相制御レーザー支援電界イオン顕微鏡のプロタイプの試作を行う。 H20年度は、光パルス照射下における固体表面からの放出イオンの運動量および放出角度分布の測定を行うことのできる固体表面反応制御用真空チェンバーの作製を行った。固体表面から発生した分子イオンを引き出し電極で加速しその放出角度分布を2次元画像イオン検出器で測定した。またH20年度は、位相制御光が導入できる電解イオン顕微鏡の試作を行った。
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