本年度は、2-ナフチルアラニン-αアミノイソ酪酸(Aib)-Aibの3量体を繰り返し単位とする9量体、18量体、27量体ペプチドのN末端にリポ酸を結合したヘリックスペプチドを合成した。それぞれのヘリックスペプチドの溶液に、金基板を浸漬することにより、自己組織化単分子膜の調製を行った。電子ドナーとしてトリエタノールアミンを含む永溶液中に単分子膜修飾基板を浸漬し、280nmの光でナフチル基を励起して光電流発生実験を行った。光電流値は、N3膜で0.23nA、N6膜で0.48nA、N9膜で0.72nAであり、末端ナフチル基についての量子収率はそれぞれ、9.3%、15.0%、21.6%と求められた。光電流発生実験の結果を定量的に議論するために、励起状態の生成、エネルギー移動を含めた励起状態の失活、そして電子移動、それぞれの素過程の速度定数を理論的に計算し、それらの速度定数と反応中間体の数との間の関係式を定常状態近似により解くことで光電流値を理論的に計算し、実験結果と比較した。まず、ペプチド鎖を長くすることにより、C末端ナフチル基と金との距離が長くなり、それによって励起エネルギーの金による消光が抑制され、アニオンラジカルの生成効率が向上することがわかった。また、ナフチル基間での電子ホッピングを考慮しない場合の計算値は実験値に比べて非常に小さいのに対して、電子ホッピングを考慮した場合は計算値と実験値がよく一致した。このことから、ナフチル基間で効率のよい電子ホッピングにより、C末端ナフチル基から金への長距離移動が効率よく起こることがわかった。一方、ナフチル基間でのエネルギーマイグレーションは光電流発生に影響を与えないことがわかった。これは同種発色基間でのエネルギー移動が方向性をもたないためと考えられる。以上のように長鎖ヘリックスペプチドを用いて発色基を規則正しく配列することにより、励起エネルギーによる初期電荷分離とその後の電子伝達が効率よく起こる光電流発生システムの構築に成功した。
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