我々のグループでは、ペプチドの二次構造の一つであるヘリックスが、優れた自己集合化特性を持ち、高密度に配列したアミド結合に由来する高い電子伝達性や、ダイポールモーメントによる電場効果を示すことを見出し、ヘリックスペプチドの分子エレクトロニクス素子としての可能性を示してきた。これまでに側鎖に複数の発色基を規則正しく配列させたヘリックスペプチドを用いて、金基板上に自己組織化単分子膜(SAM)を調製し、発色基の光励起による光電流発生について検討を行い、側鎖発色基間の良好な電子ホッピングによって光電流発生が促進されることを見出している。本研究では、エネルギーアクセプターをヘリックス末端に導入して、側鎖発色基の励起エネルギーを集めることで、光エネルギーを電気エネルギーへ効率よく変換する新規な光電変換システムの構築を目指した。平成21年度においては平成20年度に得られた知見から、新た2-ナフチルアラニン-αアミノイソ酪酸-αアミノイソ酪酸からなる3量体配列を6回繰り返した18量体ペプチドのN末端に含硫黄リンカー、C末端に側鎖ナフチル基からの励起エネルギーアクセプターとしてエチルカルバゾリル基をそれぞれ結合したペプチド、N6Eを分子設計・合成した。溶液中での1)吸収、2)蛍光、3)円偏光二色性、それぞれのスペクトル測定より、N6Eにおいては、1)側鎖ナフチル基間およびナフチル基とエチルカルバゾリル基間には基底状態での強い電子的相互作用がないこと、2)励起されたナフチル基からエチルカルバゾリル基へ良好なエネルギー移動が起こること、3)ペプチドは3残基でほぼ一周する3_<10>ヘリックス構造をとること、などが明らかとなった。N6Eの溶液に金基板を浸漬することにより、自己組織化単分子膜を調製した。エリプソメトリー、赤外反射吸収スペクトル測定、サイクリックボルタンメトリーによりキャラクタリゼーションを行った結果、N6Eは稠密で分子配向が均一な単分子膜を形成することが明らかとなった。
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