本研究では、エネルギーアクセプターをヘリックス末端に導入して、側鎖発色基の励起エネルギーを集めることで、光エネルギーを電気エネルギーへ効率よく変換する新規な光電変換システムの構築を目指した。2-ナフチルアラニン-αアミノイソ酪酸-αアミノイソ酪酸からなる3量体配列を6回繰り返した18量体ペプチドのN末端に含硫黄リンカーを導入した構造を共通な構造として、ペプチドのC末端にナフチル基、アントリル基、ピレニル基、エチルカルバゾリル基をそれぞれ結合したペプチド、N6N、N6A、N6P、N6Eを合成した。N6Nはエネルギーアクセプターを持たない参照ペプチドであり、それ以外はC末端にエネルギーアクセプターを有するペプチドである。各ペプチド溶液に金基板を浸漬することによってSAMを調製し、種々のキャラクタリゼーションを行ったところ稠密で分子配向の均一な単分子膜が形成されていることがわかった。続いて電子ドナー水溶液中でナフチル基を光励起し電流応答を調べた。いずれのSAMにおいても光照射に応答してアノード電流が発生した。量子収率を計算した結果、N6N、N6A、N6P、N6E SAMの量子収率は、それぞれ4.5%、2.5%、2.0%、2.3%と求められた。理論計算により末端発色基の励起エネルギーの捕集効率を見積もったところ、エネルギーアクセプターを導入した系では、光捕集効果が認められた。しかしながら、蛍光消光実験の結果、発色基によって電子ドナーから末端発色基への電子移動速度定数に大きな違いがあることがわかり、このため光捕集効果が直接光電流発生の促進につながらなかったことも明らかとなった。以上の結果から末端発色基の電子特性を最適化することにより、天然の光合成系に見られるような光エネルギー捕集と電子移動を効果的に利用した光エネルギー変換分子システムが構築可能であることが明らかとなった。
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