研究概要 |
本年度は,Naを利用した合成手法を用いて,前年度までに合成してきたβ-FeSi_2以外の代表的な遷移金属シリサイド系熱電材料であるCrSi_2,MnSi_<1.7+δ>,およびCoSiの低温合成を試み,それぞれの単相粉末試料が550-600℃の加熱で作製できること,生成した粉末の粒径は,原料金属粉の粒径と同等,もしくは小さいことを明らかにした.これら単相試料の生成温度は従来の固相反応法よりも350-400℃以上低温であった.また,これらの金属シリサイド粉末を原料にしてパルス通電焼結法でバルク体を作製し,熱電特性を評価した.バルク体の無次元性能指数(ZT)の最大値はCrSi_2が0.08(600℃),MnSi_<1.7+δ>が0.42(500℃),CoSiが0.26(350℃)を示し,CrSi_2以外は,メカニカルアロイングなどの従来の合成手法で作製された試料とほぼ同等,もしくはそれらより高い熱電特性を示した. 高温構造材料としての応用が期待される高融点の第5,6周期の遷移金属シリサイドであるMoSi_2,NbSi_2,TaSi_2,およびWSi_2についても低温合成を試みた.安定相であるα-MoSi_2の多形で準安定相のβ-MoSi_2の単相粉末試料を600℃で合成することに成功した.精密結晶構造解析より,これまで知られていなかった原子座標を決定し,焼結させた試料の電気的特性の測定から,電気抵抗率が室温から500℃まで温度上昇とともに緩やかに増加する金属的な振る舞いを示すこと,ゼーベック係数がα-MoSi_2よりも10倍大きな+60から+89μV/Kの値を示すことを明らかにした.他のNbSi_2,TaSi_2,WSi_2も固相反応法よりも低温で単相粉末試料を合成することができ,第5周期よりも第6周期の遷移金属シリサイドの方が高温で生成する傾向を示した. Na-Si融液中でNb板を加熱することで,Nb板上に約100μmのNbSi_2膜を作製することにも成功し,このNbSi_2膜は大気中1427℃,10hの加熱でもNb板の耐酸化保護被膜として機能することを明らかにした.Naを利用した本合成手法は,準安定相や低温相を含む様々な金属シリサイドの合成に有用で,粉体やバルク体だけでなく,厚膜の作製にも応用できることが示された.
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