本申請研究では、中赤外超短パルス発生・制御技術の確立を目指している。中赤外域で数マイクロジュールクラスのパルスエネルギーを持ち、広帯域なスペクトルをもつ中赤外光パルスの発生とその短パルス化を行う。また、中赤外パルスシェイパーを開発して振幅・位相制御を実現し、液相分子のコヒーレント制御へ展開する。 本年度は、中赤外パルスシェイパーの性能に関する基礎的な研究を進めた。まず、振幅・位相変調の周波数分解能を調べ、フーリエ面上での音響波の一波長の広がりが、これを決めていることを明らかにした。また、音響光学素子で蓄積する分散と、折れ曲がり光学系であるが故に蓄積する分散を理論的に評価し、その補償法を検討した。大きな二次および三次分散を与えた際にはチャープされた音響波を利用する。と同時に、それによってブラッグ条件が満たされない周波数領域が生じる。そこで、変調できる周波数幅と付加できる分散量を理論・実験両面から明らかにした。 次に、分子コヒーレント制御へ向けた取り組みを開始した。すなわち、振動遷移を利用したコヒーレント制御に関する原理的な実証実験を考案し、そのためのターゲット分子と溶媒の選択を行った。また、中赤外非線形分光法により、ターゲット分子の各振動準位に関して、励起寿命とコヒーレンス時間を測定した。今後は、中赤外パルスシェイパーと非線形分光装置を融合し、さらに複雑な位相をもつパルスの発生と評価を行い、コヒーレント制御実験へと展開する。
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