ナノメートルオーダーの3次元構造を有する要素を密集配列したナノ構造集合薄膜は、従来の材料では発現し得ない特異な力学特性を示す。その特性を用いることによって、様々な機能を持つ微小電気機械デバイスを創生することが期待できるが、その実現にはナノ構造集合薄膜の変形と破壊に関する基礎的な理解が不可欠である。本研究は、自己組織的手法によって任意の材料に対して形態を制御したナノ構造要素群の作製が可能である動的斜め蒸着法に着目し、力学的自由度の高い薄膜作製法の開発、およびその特異な変形と破壊を支配する力学の解明を目的とする。 本年度は、前年度に開発・導入した動的斜め蒸着装置を用いて、金属(チタン)を素材としてシリコン基板上に寸法の異なる傾斜コラム、直立コラム、およびらせん構造を有するナノ構造集合薄膜を作製した。これらのナノ構造要素およびその集合薄膜に対する塑性変形特性および強度の評価実験手法を開発した。ナノ構造を考慮した強度モデルを考案するとともに、有限要素法による変形解析を行い、ナノ要素の形態と変形・強度特性の相関について検討した。 一方、構造の異方性に起因する力学特性の異方性に着目し、ナノ構造集合薄膜の摩擦特性評価実験を実施した。その結果、構造に異方性のある傾斜ナノコラム集合薄膜では、コラムの変形モードの相異によって、摩擦抵抗に大きな異方性が発現することを明らかにした。 さらに、微小試験片を用いた独自の評価実験手法により、ナノ構造集合薄膜と基板の界面におけるはく離強度評価に着手し、コラムと基板の界面強度の異方性について検討を進めている。
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