長さが数十μmのカーボンナノチューブ薄膜に原子フッ素ビームの照射を行った。その結果、X線光電子分光法(XPS)の分析の結果C-Fの化学結合が確認され、マイクロ摩擦試験での摩擦係数も減少していた。しかしながら、その摩擦係数はまだ1を超えるものであり、十分な低摩擦とは言えない。高摩擦の原因として、カーボンナノチューブ薄膜内の各々のカーボンナノチューブの長さが異なり、フッ化を行っても平均より長いカーボンナノチューブが摩擦チップに幾何学的にスティックするためと考えられる。CNTの各々の長さが異なる原因は成長時間が長くなると、カーボンナノチューブの成長の核となる微粒子触媒のばらつきによるナノチューブ成長速度が異なるためと考えられる。またカーボンナノチューブが必要以上に長いので、カーボンナノチューブの剛性が低下し、結果的に摩擦チップに接触するカーボンナノチューブの本数が多くなり、さらにカーボンナノチューブが曲がることによって反力も大きくなり、摩擦係数が大きくなったことも原因と考えられる。さらに、カーボンナノチューブの密度が低いと、チップを支えるのに十分な曲げ反力を得ることが出来ず、チップがカーボンナノチューブ薄膜にめり込んでしまい、チップがスティックし、高摩擦力が生じる原因となった。次年度はこれらのことをクリアーし、低摩擦実現をおこなう。また、カーボンナノチューブ薄膜の修飾を行う、ビーム源の改良を行い、安定して数百万回のパルス照射を行えるようになった。
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