前年度まで荷重レンジをμN、摩擦チップの先端曲率半径を数μmとしていたが、このような条件では各カーボンナノチューブ(CNT)に過大な力が働きチップに大きな曲げ反力が加わったために、高摩擦力が生じたと思われる。そこで今年度は直径が数mmのボールを用いて摩擦実験を行った。その結果、前年度までは摩擦係数が1を超えることが多々あったが、直径が数mmのボールを用いた時には摩擦を繰り返すうちに摩擦係数は0.1を下回るようになった。これは多数の摩擦を繰り返すうちに表面から飛び出しているCNTが塑性変形をうけ、結果的に多数のCNTでボールを支えることができ、一本のCNTに加わる力が減少し曲げ反力が著しく減少したためと思われる。それゆえさらなる単位面積当たりの摩擦面積の増加によって摩擦力減少を実現できると思われる。 また表面修飾のみならず、水和潤滑で摩擦係数を低減する試みとしてレーザープラズマ型超熱原子ビーム発生装置を用いて、超熱フッ素原子や酸素原子ビームをCNT薄膜に照射することによって、フッ化や酸化の修飾を行いCNT薄膜の濡れ性制御を行った。CNT薄膜に400shotsの超熱フッ素原子ビームの照射を行ったところ、表面はフッ化されていたが走査電子顕微鏡(SEM)観察では殆ど変化は見られなかった。また接触角を測定したところ160°と超撥水性をしめした。また超熱酸素原子を照射したCNT薄膜の場合は、酸化され拡張濡れが生じるほど濡れ性が高い超親水となっていた。このように超撥水・超親水CNT薄膜を対抗させてその間に水を導入し、水和潤滑によってアメンボが水を滑るように超低摩擦を実現できる可能性が示された。
|