研究概要 |
近年,大気海洋大循環モデル(GCM)を用いて地球の温暖化を予測するための研究が活発に進められているが,その長期予測の信頼性は必ずしも高くはない.その原因の1つとして,温暖化の進行過程において特に重要となる地球全体の熱収支に及ぼす雲およびエアロゾルの影響が正確に評価できていないことが挙げられる.そこで,本研究では,太陽光による熱エネルギーの大気乱流中における反射・吸収・透過プロセスに及ぼす雲の影響を,精巧な室内実験および高精度の数値シミュレーションを行うことにより解明することを目的とする.平成23年度の研究実施概要を以下に示す. (1)単一液滴の内外部流と熱輸送に関する研究:単一液滴の内外部流れの三次元直接数値シミュレーション(DNS)により,浮力の影響を簡易的に考慮する際に良く用いられるブジネスク近似の妥当性を詳しく調査した.その結果,浮力は,液滴に働く抗力,Nusselt数,剥離位置,および渦特性を大きく変化させる働きがあることが明らかになった.また,気液間の温度差が大きくなると,ブジネスク近似はこれらの浮力の影響を再現できないことが明らかになった. (2)分散二相乱流の熱輸送に関する研究:対流雲中の放射エネルギーの反射・吸収・透過プロセスを模擬する三次元直接数値シミュレーション(DNS)を実施することにより,可視光線や赤外線に対する放射特性およびマイクロ波に対する反射特性に及ぼす乱流の影響のモデル化を行った.また,これらのモデルを用いて,メソスケール対流雲シミュレーションのデータを解析することにより,実環境スケールの雲の放射特性に及ぼす乱流の影響の評価を行った.その結果,可視光線および赤外線に対する放射特性に及ぼす乱流の影響は実際の雲では無視できるほど小さいことが明らかになった.一方,マイクロ波の反射特性は,乱流クラスタリングにより無視できないほど大きく増加する場合があることが明らかになった.
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