研究概要 |
H20年度に発見した,InGaN選択成長におけるIn取り込み機構をより詳細に解析し,高In組成のInGaN量子井戸を用いた選択成長により,可視光領域をカバーする大きな発光波長シフトを実現することを目指した.InGaN井戸におけるIn組成が,選択成長領域近傍の気相に存在するIn前駆体の濃度分布には依存せず,GaNの成長速度のみに依存するという前年度得た新たなメカニズムを検証・拡張するため,リアクタへのIn原料(trimethyl-indium ; TMIn)の供給量を大きく変化させた際の,すなわち,気相のIn前駆体濃度の絶対値を大幅に増加させた際のIn取り込み量の変化を観察した.その結果,InGaN井戸中のIn組成は,Ga原料(trimethyl-gallium ; TMGa)に対するTMInの分圧比を増やすことにより増加でき,InGaN井戸からの発光波長の長波長化を達成できた.しかし,このような状況であっても,選択成長領域内部における有意なIn組成変調効果は観察されず,InGaN/GaN多重量子井戸成長における発光波長の空間変調効果は,依然として成長速度に依存した井戸幅の変化によるものであることが明らかになった.このように,InGaAsP系でみられた組成変調による発光波長の空間変調は,InGaN/GaN系では用いることが困難であるという見通しを得た.一方,上記の現象に対する成長温度の変化は十分に検証できておらず,今後成長温度の低温化により成長領域内のIn組成変調を達成できる可能性が残っている.
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