本年度は、垂直磁気異方性を持つ強磁性薄膜パターンに対してマイクロ波アシスト磁化反転特性を実験、およびマイクロマグネティクス計算により詳しく調べた。研究成果を以下にまとめる。 (1) 強磁性Coと非磁性Pdを交互に積層した強磁性多層膜を作成し、その磁気特性(飽和磁化、保磁力、キュリー温度)の層構成依存性を調べた。その結果、[Co(0.17nm)/Pd(0.8nm)]_<20>膜において明確な垂直磁気異方性が発現することを確かめた。さらに、スパッタガスをArから原子量の大きなKrに変更することにより、保磁力を1.5kOeから4kOeに増加させることに成功した。 (2) Co/Pd多層膜パターン上に微細加工したマイクロ波伝送線路を作成し、ネットワークアナライザを用いて強磁性共鳴スペクトルを測定した。スペクトル線幅から見積もったダンピング定数は、0.06~0.08程度であり、マイクロ波アシスト磁化反転に求められる条件(0.2以下)を満足していることを確かめた。 (3) Co/Pd多層膜パターンに対し、磁化反転方向に保磁力の80%程度の直流磁界を印加しながら、前記伝送線路にマイクロ波インパルスを印加し、マイクロ波アシスト磁化反転の有無を調べた。なお、本研究では、磁化反転に伴う強磁性共鳴スペクトルの周波数シフトを観察することにより磁化反転の有無を調べた。その結果、Co/Pd多層膜の固有共鳴周波数(31GHz)よりも10%程度低い周波数にて磁化反転確率が極大となる結果が得られた。この結果は、結晶粒間が交換結合した垂直磁化媒体に対するマイクロ波アシスト磁化反転のマイクロマグネティクス計算の結果とよく一致しており、垂直磁化膜において初めてマイクロ波アシスト磁化反転を実験検証することに成功した。
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