研究概要 |
本研究は,接合部の劣化を考慮した伝統木造建築の地震時挙動を析的に明らかにすることを目的としている.伝統的木造建築の構造性能は接合部性能に依存しており,接合部の劣化が建物の構造性能に及ぼす影響を定量的に評価することは極めて重要であるが,接合部種類の多様性に加え劣化そのものの不確定性により,体系的な研究は行われていないのが現状である.本研究は,(1) 伝統的木造建築の構造性能評価と地震被害検証,(2) 接合部実験,(3) 劣化した木材の材料試験,を行うことで,接合部の劣化を考慮した伝統的木造建築の構造性能評価を行うことを目的としている. 平成21年度は,昨年度に引き続き,実在の伝統的木造建築数棟を例に実測調査・微動測定・地震観測を行うと同時に,楔の性能を考慮した接合部実験を行った. 1. 建長寺仏殿法堂の実測調査・微動測定・地震観測 関東地震の際に被害を受けた国指定重要文化財建造物建長寺仏殿及び同地震で被害を免れた法堂(ともに鎌倉市)を対象に実測調査等を行った.同寺で,申請者らは過去に実測調査を行っているが,本年度は主に接合部形状・楔寸法・部材の劣化状況に着目した調査を行った.さらに,仏殿・法堂において微動測定を実施し,構造物の基礎的な振動特性を明らかにした.建物所有者と十分な協議を行い賛同が得られたため,建長寺の仏殿・法堂両堂宇にて地震計(地盤と小屋裏2か所,計4chずつ)を設置し,強震観測を本年9月より開始し,現在も継続中である.微動測定の結果との比較検討により,微動時と強震時の振動特性の差異等の考察を行っている. 2. 柱貫接合部の静的水平加力試験 地震観測を行っている建長寺の仏殿,法堂の主要な水平力抵抗要素である柱貫接合部の静的水平加力試験を行い,既往の理論モデルを用いて検証を行った.更に既往の理論モデルでは算出できない,接合部に貫材(スギ)と同じ樹種および異なる堅木(ケヤキ)の楔を用いて同様の実験を行い,楔の有無および樹種による影響に関する考察を行った.
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