研究概要 |
本研究では, 曲げ降伏する鉄筋コンクリート部材の降伏に至るまでの履歴性状を理論的にモデル化することで, ひび割れ後から曲げ降伏までの減衰のメカニズムを解明することを目的とする。建物の減衰定数を正確に予測する理論的な方法は今のところ存在せず, その評価は従来から実測に頼っている。設計時に計算される固有振動数に比べると, その精度はかなり低く不明確である。鉄筋コンクリート建物の場合には, 大きな塑性化を許容しない, 剛性が高く靱性が小さい壁構造や免震建物の上部構造の性能において, 曲げ降伏に至るまでの履歴減衰が構造性能に大きく関わる。平成20年度は, 研究の基礎データ収集のため, 実験を行い, ひび割れ後から曲げ降伏までの履歴性状の調査を行った。試験体は7層RC建物を想定したせん断スパン比が2となる曲げ降伏型連層耐震壁である。試験体は3体とし, 主筋径, 本数をパラメータとし, 軸力を一定に保持した状態で逆対称加力による正負交番載荷を行った。試験体には複数の高精度変位計を設置し, 曲げ降伏前の履歴性状の計測を行った。実験結果から, 曲げ降伏前の履歴性状データを収集した。現在, 収集したデータの分析を進めているが, 収集したデータには試験機の減衰特性が含まれていることがネックになっており, データの収集にとどまっている。平成21年度は, 試験機の減衰特性の除去を行う方法を用いて載荷試験を行い, 曲げ降伏前の履歴特性における減衰の解明を行いたいと考えている。履歴曲線から載荷装置の減衰特性を排除するための方法として, 鉄骨試験体を作製し, 鉄筋コンクリート試験体と比較を行う。鉄骨試験体の剛性は, 鉄筋コンクリート試験体の曲げひび割れ前, 曲げひび割れ後, 曲げ降伏前の剛性と一致するものを用いる。鉄骨柱の戻り剛性は弾性範囲内であれば線形になると考えられ, 載荷装置の減衰が入力されたとしても, 両試験体の比較により排除できると考えられる。載荷は漸増繰り返し載荷を行い, 剛性と履歴の考察を行う。
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