近年開発が進められている人体熱モデルでは、人体を比較的多くの要素で表現したモデル化がなされている。人体熱モデルの解像度に相応しい着衣の熱・水分移動モデルを開発し、その妥当性を検証することを目的として、着衣の形成する空気層での換気・気流性状とその熱抵抗に焦点を当てた検討を行った。本年度に得られた研究成果は以下の通りである。 (1)着衣が形成する空気層の形状・寸法測定(3次元座標データの取得) 3次元レーザースキャナを用いて、若年男女の平均的な体格を模したマネキンを用いて、典型的な着衣条件に対して、着衣内空気層の形状を測定した。 (2)空気層の熱・湿気抵抗の推定 (1)のデータに基づき、空気層の熱・湿気抵抗の典型値を提案した。人体の部位を比較的細かく分割して出力し、多様な人体熱モデルへの適用が可能となるよう配慮した。 (3)着衣内空気層での数値流体解析 (1)の形状データを用いて着衣内空気層での気流性状を解析する方法の提案を行った。衣服の下端・上端・袖口等の開口部での換気、衣服表面での通気を考慮し、男性がTシャツを着用した立位静止状態、静穏気流条件に限定して解析を行った。皮膚表面での上昇気流の方向が体の表面形状に左右され、それが布面を通しての通気性状に影響を及ぼすなどの特徴を明らかにした。また、布の通気抵抗の感度解析を行い、今回検討を行った静穏気流・立位静止状態に関しては、通気性が衣服内換気母に及ぼす影響は小さいことを示した。 (4)衣服内換気が生理量に及ぼす影響の評価 (3)で得られた衣服内空気層での換気量を、着衣一人体熱水分同時移動モデルに入力して、換気が皮膚温等の生理量に及ぼす影響の評価を行った。今回検討した条件下では、換気の影響は甚大とは認められないことを示した。
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