本年度は、前年度に整備した温調フローセルに若干の再調整を行い、層流が分子の挙動に及ぼす影響の知見(前年度成果)を基に、この知見を効果的に応用可能な反応系の構築を行った。言い換えれば、これまでの研究が、偶然見出した特異な反応の解析であったのに対し、本年度は、これまでの物理科学的知見から、特異な反応をデザインしていくことを目指すものである。 層流によってもたらされる効果の定量評価法が確立されている2本鎖DNAに注目し、2本鎖DNAにミスマッチ塩基対があるとき、層流が、ミスマッチがない場合と比較して、2本鎖の熱的安定性の差を拡大させ、結果、層流による精密な配列選択的2本鎖検出に資することを見出した。また、その物理化学的性質の詳細な検討を行った。これは、二重鎖としての性質が、ミスマッチの前後で分断されるという性質と、これまでの層流の物理化学的知見から予測して検討を行ったものであり、初めて、層流中での特異反応をボトムアップ的に創り出すことに成功した。 一方、酵素反応についても、このような「昨年とは逆の視点」から検討を行った。当然であるが、得られた酵素反応の反応性の変化の要因に関する知見は昨年の報告と同じで、層流は酵素が基質と会合体を形成する効率を変化させ、それに伴って全体の見かけの酵素反応効率を変化させているのであって、酵素の回転数や反応初速度といった、酵素そのものの化学反応性を変化させるのではない。しかしながら、酵素反応に対する知見の蓄積によって、影響を受けやすい/受けにくい反応系の予測などを、ある程度は見通すことができるようになった。
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