血管構造の構築は、再生医療分野においてブレークスルーが必要な重要な技術の一つである。本研究でこれまでに構築した細胞シートやスフェロイドの積層化技術のみでは、酸素枯渇のため1cm角の組織という目標には届かない。そこで、細胞脱着技術を金ワイヤ上へ応用し、細胞組織内への血管構造の導入を試みた。まず、直径500μm程度の金ワイヤに血管内皮細胞をチオール分子層を介して接着させた。次にこのワイヤを培養チャンバー内で規則配置し、コラーゲンゲルを満たした後に、電位を印加して金ワイヤを引き抜いた。このようにして、内表面が血管内皮細胞に覆われた血管様構造を導入した。培養培地中に種々の成長因子を添加して還流培養したところ、血管内皮細胞は、ゲル内へ向けて自発的に管腔構造を伸長し、血管様構造間を橋渡しするように伸長した。さらに次のステップとして、コラーゲンゲルにあらかじめ肝細胞を包埋し、血管構造をもつ肝組織様の構造体の作製に取り組んだ。その結果、肝細胞は還流培養中に増殖することが示され、内表面を血管内皮細胞に覆われた血管様構造を介して酸素や栄養素が供給されていることが示唆された。以上から、本手法は肝組織様構造の作製技術として有用と考えられる。今後、微細加工技術をさらに応用して、金ワイヤを三次元的に配置し、その本数を増やすことによって従来では不可能であった三次元的に厚みのある組織構築を目指し、再生医療において有用であることを実証する。
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