超伝導磁気エネルギー貯蔵装置や核融合炉などの低環境負荷型高効率エネルギーシステムの低コスト・小型化を目指して、システムの核である超伝導体などの機能性薄膜の高性能化をボトムアップ型エピタキシャル薄膜作製技術の構築によって実現することが本研究の目的である。 酸化物超伝導体を用いて強力な超伝導マグネットを作るためには、超伝導体中に侵入した磁束線の運動による超伝導状態の破壊を抑止する必要がある。そのためには、超伝導体中に微細な常伝導物質を添加することが有効である。近年、YBa_2Cu_3O_γ (YBCO)超伝導薄膜にBaSnO_3 (BSO)などを添加すると、BSOがナノロッド状に自己組織化し、磁場中における臨界電流密度(J_c)を劇的に向上させることが報告された。BSOの密度が多いほど、より高磁場でも磁束線の運動を抑止できるが、超伝導体の体積率が減少するためにJcが低下する。つまり、最適な添加量が存在する。しかし、最適な添加量の決定とさらに効果的な添加材料の探索には莫大な時間を必要とする。 本研究では、コンビナトリアルパルスレーザー蒸着(C-PLD)法を用いたBSO最適添加量の高速探索に関して検討を行った。C-PLD法を用いることで、一枚の薄膜試料中に様々なBSO添加量を持ったYBCO薄膜を一回の実験で作製可能である。この一枚の試料を切り出し、BSO添加量に対する超電導特性を測定した結果、BSOの最適添加量は3.2vol.%であり、このBSO添加量のYBCO薄膜が最も高い磁場中Jcを示した。この最適添加量はほかのグループによって報告されている結果と一致し、C-PLD法が最適添加量の高速探索に有効であることが証明された。次に、このC-PLD法を用いて、磁束線の運動をより効果的に抑止できる新規添加材料の発見を目指して検討を行った。その結果、BSOほど効果的な材料を見つけることは出来なかったが、Ba-Tb-O系材料の添加で磁場印加方向に対するJcの異方性が緩和され、等方的なJcが得られることがわかった。B5:B6
|