花・種子生産量が年によって大きく変化するマスティング現象は様々な分類群の樹木で知られているが、東南アジア熱帯雨林では群集レベルでのマスティング(一斉開花)が起こる。一方で、高頻度で開花・結実する非一斉開花型樹木も同所的に生育しており、非一斉開花型樹木の繁殖成功に一斉開花が与える影響、およびその逆の影響については全く注目されてこなかった。本研究では、この両型の樹木それぞれの繁殖成功とそれに影響を及ぼす要因、さらに両型間での繁殖に関わる相互作用を明らかにすることを目的とした。 平成22年度は非一斉開花年であったが、平成21年度末に大量の種子が散布されたため、一斉開花型樹木の種子散布後の実生動態とそれに影響を及ぼす非生物的・生物的・遺伝的要因を明らかにするための野外調査と遺伝実験を実施した。12種の実生の生残率、およびそれを左右する要因は種によって異なることが示された。遺伝実験はまだ途中であるため結果が出ていないが、平成23年度中にまとめる予定である。また、非一斉開花型樹木ではパイオニア樹木を材料に繁殖成功(結果率・結実率・種子重など)と送粉者相を継続的に調査した結果、送粉者相は一斉開花時に変化するものの、キーとなる送粉者相が不変であるため繁殖成功は変化しないことが分かった。さらに、群集レベルでの一斉開花の影響を資源配分の観点から解析したところ、一斉開花年には当年の光合成産物を繁殖に大量に配分するため、群集レベルの樹木成長や炭素固定量が低下することも示唆された。
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