本研究は、糖鎖分子を扱う第三の分子生物学(=グライコミクス)を深海底に導入し、共生関係にある微生物-大型生物の相互作用・相互認識機構を分子レベルで解明することを目的とするものである。 平成22年度は、計画していた目標を全て達成し、想定以上の成果を得た。本年度は、主に共生微生物を培養することができていない細胞内共生系において、1.細胞内共生微生物と2.そのホスト生物における糖鎖プロファイル(どのような糖鎖がどれくらい存在するか)の解析を重点的に進めた。昨年度にインド洋中央海嶺において実施した研究航海において採取していた試料を用いて、共生微生物とホスト生物の細胞を物理的に分画してから解析を行なった。解析にはこれまでの研究において最適化してきた糖鎖精製法・ラベル化法・MALDI-TOFMS解析法を用い、様々な生理状態における細胞内共生微生物およびホスト生物の糖鎖プロファイルを解析することに成功した。本年度の研究により、共生微生物を分離できない共生系においても、これまで解析してきた細胞外共生系と同じレベルで、異種生物間の糖鎖を介した相互認識・相互作用機構を解析し、総合的に体系化するための知見を得ることが出来た。 加えて、ホスト生物において発現している糖鎖のプロファイルが、ホスト生物の生理状態を敏感に反映する指標として応用可能であることを見いだした。 以上の結果の一部は、国内外における複数の学会や国際誌等で報告した。
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