研究概要 |
極長鎖脂肪酸は炭素数20以上の脂肪酸を指し, スフィンゴ脂質の構成成分あるいはプロスタグランジン等の生理活性脂質の前駆体として, 炎症, 皮膚機能, 網膜機能など多彩な生理機能を有する。極長鎖脂肪酸の生合成過程では,アシルCoAとマルニルCoAが縮合・還元・脱水・還元の4ステップを1サイクルとする伸張サイクルにより, 炭素数2ずつ伸張したアシルCoAが生成される。これまで哺乳類においてこの3段階目を触媒する3-ヒドロキシアシルCoA脱水酵素が未同定であった。我々は近年酵母において同定されたPhs1とのホモロジーより, これまで機能が未知であったPTPLA, PTPLB, PTPLAd1, PTPLAd2の4つの互いに相同性を示すタンパク質が哺乳類における3-ヒドロキシアシルCoA脱水酵素である可能性を考え, 解析を行ない, 実際これらが3-ヒドロキシアシルCoA脱水酵素として機能することを実証した。また, これらの細胞内局在,組織特異的発現,他の伸張サイクルの酵素との相互作用, 3-ヒドロキシパルミトイルCoAに対するK_m値/V_<max>値の測定等も行なった。 酵母Phs1の発現をシャットオフするとスフィンゴ脂質の代謝に大きな影響を与える。酵母の複合スフィンゴ脂質の合成ではホスファチジルイノシトールからスフィンゴ脂質骨格のセラミドにホスホイノシトールが転移されるが, ホスファチジルイノシトールの小胞体からゴルジ体への輸送が損なわれていることがその原因であった。このことは極長鎖脂肪酸の合成とスフィンゴ脂質代謝・脂質輸送が共役していることを示唆していた。また, Phs1の膜トポロジー, 活性中心残基の同定にも成功した。
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