研究概要 |
Phs1ファミリーは,極長鎖脂肪酸伸長サイクルの3段階目を触媒する酵素である。極長鎖脂肪酸合成が低下すると,ホスファチジルイノシトールやスフィンゴ脂質の細胞内輸送や代謝が影響を受けることを我々は見出してきた。しかし,この分子機構を明らかにするためには,これまで詳細が不明であった極長鎖脂肪酸伸長サイクルの各ステップの因子の酵素学的性質の詳細な解析が必須であった。そこで本年度の研究では,このサイクルの律速段階を触媒する縮合酵素の解析を行なった。我々はin vitroでの生化学的な解析から哺乳類に7つ存在する縮合酵素(ELOVL1-7)の基質特異性の検討を行い,それぞれの酵素が鎖長・不飽和度の異なるアシルCoAに対して特徴的な基質特異性を示すことを明らかにし,極長鎖脂肪酸伸長経路の全体像を解明した。また,それぞれの縮合酵素の組織特異的な発現パターンも明らかにした。ELOVL1は飽和の極長鎖脂肪酸合成において中心的な役割を果たすことを見出したが,さらに我々はこの飽和極長鎖脂肪酸を基質とするセラミド合成酵素CerS2がELOVL1と相互作用をして活性を調節することを明らかにした。また,固体レベルで極長鎖脂肪酸の合成不全がホスファチジルイノシトールやスフィンゴ脂質の細胞内輸送・代謝に影響を与えるか調べる目的でELOVL1遺伝子及び哺乳類Phs1ファミリ-HACD1遺伝子のノックアウトマウスの作成を開始した。ELOVL1のノックアウトマウスは致死となることが予測されたので,コンディショナルノックアウトマウスの作成を行なっている。現在までにこれらのジーンターゲッティング用のコンストラクトの作成が完了している。
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