研究課題
ダイニンは、ATPの化学エネルギーを利用することで微小管上を滑り運動する、巨大なAAA+型分子モーターである。私たちの細胞内では、細胞内物質輸送、細胞分裂、細胞移動、鞭毛・繊毛運動を含む広範な細胞運動を駆動することで、重要な生理的機能を担うことが明らかにされてきた。しかし、ダイニン自身がどのような分子メカニズムで動いているのかという根本的な問いについては、半世紀近い研究にもかかわらず、多くの未解決問題が残されているのが現状である。本研究課題は、ダイニンの機能面での解析を進めるとともに、構造面での研究を強力に推進することで、その運動メカニズムの全貌を明らかにすることを最終目標としている。平成20年度の研究では、主に構造面での研究において2つの成果を上げた。ひとつめは、ダイニン内のサブドメインの空間的位置関係を明らかにしたことである。ダイニンはAAA+モジュールと呼ばれるATP加水分解ユニットを6個持つが、その相対的位置関係を明らかにすることはメカニズムを理解する上で重要である。本研究では、ダイニン内のさまざまな位置にGFPを挿入することで、モーター活性を維持したまま、空間的目印を持つ組換えダイニンを7種類作成した。これらに対してネガティブ染色電顕-2D単粒子解析を行うことで、6個のATP加水分解ユニットの位置を確定した。その結果は、従来の構造モデルを否定し、ダイニンの構造についての新たな知見をもたらすものとなった。もうひとつの研究成果は、ダイニン内のATP加水分解部位と微小管結合部位との間の分子内情報伝達機構を明らかにしたことである。細胞骨格系分子モーターが運動するためには、そのATP加水分解過程とトラックへの結合解離を共役させること重要である。本研究では、ダイニン内でこの共役を担うのはストークと呼ばれる長い(10-15nm)コイルドコイルであり、コイルドコイル内のわずかな構造変化により情報が伝達されることを直接示した。
すべて 2009 2008
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Nature Struct. Mel Biol. 16
ページ: 325-333
Cell 136
ページ: 485-495