研究概要 |
我々の研究室はこれまでの研究で、細胞分裂装置・スピンドルを構成する微小管を増幅し、染色体を正確に姉妹細胞へ分配するために必要なタンパク質複合体「オーグミン」をショウジョウバエおよびヒトより同定した。オーグミン複合体は8つのサブユニットから構成され、ヒト培養細胞においては、欠損させると細胞質分裂に顕著な異常が認められた(Uehara et al. Proc Natl Acad Sci USA 2009)。平成21年度、我々は、この細胞質分裂異常の原因を調べるべく、細胞生物学的研究を展開した。微小管脱重合・再重合アッセイ、微小管先端のライブイメージング実験および定量的解析により、我々は、1) オーグミン複合体およびハープと呼ばれるタンパク質が、分裂後期に分配途上の染色体近傍で新たに微小管を生み出すのに必要であること、2) この後期に新たに生まれた微小管が中央スピンドルと呼ばれる構造体の構築に重要な貢献を果たすこと、3) 一方、中心体微小管の寄与は限定的であること、を見出した。従来、中央スピンドルの構築過程において、染色体近傍で新たに微小管が生成されるということはほとんど想定されておらず、我々の発見は、細胞分裂後期の重要イベントに新たな知見をもたらすものである。現在、本研究成果は学術誌に投稿中である(Uehara and Goshima, submitted)。また最近、他のグループの研究で、複数の乳がん患者のゲノムにおいてオーグミンに変異が認められた(Nature 2009)。もしかすると、これらの変異により細胞質分裂の異常が引き起こされ、癌の原因のひとつとされている異数体の出現に至ったのかもしれない。
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