今年度は本研究で見出したタバコのカルモジュリン様タンパク(rgs-CaM)を介した防御ネットワークを裏付ける分子メカニズムについて解析・検証を進めた。まず、(1)タンパク分解系ユビキチン-26Sプロテアソームとオートファジーの阻害剤を用いた解析を行い、rgs-CaMとRSSタンパクは結合するとすぐにオートファジーにより分解されていることが示唆された。さらに、(2)タバコからプロトプラストを調整して、rgs-CaMを過剰発現すると活性酸素の産生や細胞死が観察された。これらは、サリチル酸シグナルなどの防御反応を誘導することが知られており、rgs-CaMがそれらを介してRNAサイレンシング以外の防御機構を活性化することが示唆された。(3)また、rgs-CaMがRSSだけでなくウイルスの外皮タンパク(CP)とも結合する可能性について検証した。その結果、アグロインフィルトレーションにより一過発現したウイルスCPとrgs-CaMの結合が確認されたことから、rgs-CaMとウイルスCPは他のウイルスタンパクを介さずに結合できることが分かった。rgs-CaMとウイルスCPの結合がどのように宿主やウイルスに作用しているのか、今後の興味深い研究課題の一つである。(1)(2)の結果とこれまでの本研究課題の成果からウイルスに対する自然免疫機構について次に示す新たなモデルが考えられた。rgs-CaMはウイルスRSSの2本鎖RNA/siRNA結合領域に親和性を持つことで普遍的にRSSに結合し、ウイルスの侵入を感知して自身の発現を誘導する。すなわちrgs-CaMはRSSをウイルスの病原関連基本パターン分子(PAMPs)として認識する受容体で、さらにrgs-CaM自身が、結合したRSSをオートファジーによる分解に導くことで宿主のRNAサイレンシングによる抗ウイルス活性を高めるとともに、他の防御機構も活性化してウイルスに対抗していることが示唆された。本研究の集大成として、このモデルを広く提唱するために、現在、米国科学アカデミー紀要に改訂稿を投稿中である。
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