消化管の最前線に位置する腸管上皮細胞は食品成分などによって最も高頻度かつ高濃度にさらされることから、その機能が食品因子などによって制御・調節を受けることが考えられる。本研究では細胞膜の構成成分であり食品中にも含まれるスフィンゴ脂質及びその代謝物であるスフィンゴシン1リン酸(S1P)が腸管上皮細胞に及ぼす影響を、主として腸管上皮モデル培養細胞株を用いて解析した。まず5種類のS1P受容体の発現パターンをRT-PCR法にて解析したところ、腸管上皮モデルとして用いられるヒト結腸癌由来細胞Caco-2及びLS180ではS1P1-S1P5の発現が確認され、またマウス小腸上皮細胞画分ではS1P1-S1P4の発現が確認された。次に小腸上皮様に分化させたCaco-2細胞にS1Pを添加した際の遺伝子発現変動の網羅的解析を、DNAマイクロアレイを用いておこなった。その結果クラスター解析より、S1P添加によって細胞増殖や細胞分裂に関連する遺伝子群の発現増加が見出された。さらにS1P1を安定に高発現したLS180細胞株を作成し、その作成したS1P1高発現LS180細胞を用いてmock細胞との比較でDNAマイクロアレイ解析をおこなった。その結果S1P1高発現細胞株では、特に転写制御に関連する遺伝子群の発現増加がみられた。そこでその一つであるE-box結合転写因子であるE2-2/TCF4に注目し、Real-time PCRによって再現性を調べたところ実際にS1P1高発現株におけるE2-2/TCF4のmRNA発現亢進が確認された。さらにE2-2/TCF4の標的遺伝子であるCYP3A4及びYB-1についてS1P1高発現株とmock株で比較したところ、いずれもmRNA発現量の増加が確認された。一方並行してS1P2受容体の下流シグナル系を解析した結果、S1P2を高発現させた状態でS1Pを添加するとcAMPカスケードによって活性化されるCRE依存的な転写活性の亢進が確認された。
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