これまで腸管上皮細胞にはスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体が発現することが確認されたことから、昨年度に引き続き腸管上皮細胞の各種細胞機能に対するS1Pの生理作用を解析した。その結果、Toll様受容体(TLR)の一種であるTLR1/2のリガンド(Pam3CSK)刺激によって誘導された炎症性サイトカインの一種であるインターロイキン6(IL-6)産生がS1P添加によってさらに亢進されることが見出された。このS1Pによる産生増強作用はIL-6だけでなくMCP-1でも観察された。そこでこのS1Pの作用にS1P1-S1P5のどのS1P受容体が関与しているのか検討することとし、腸管上皮で最も高い発現が確認されたS1P2の選択的アンタゴニストであるJTE013を添加したところ、JTE013添加によってS1Pの亢進作用は完全に抑制された。またS1P2選択的アゴニストであるCYM5520によっても同様なIL-6産生増強作用がみられ、S1PによるTLR1/2刺激によるIL-6産生亢進に対する増強作用はS1P2を介していることが示唆された。またPam3CSK処理によって増加したIL-6mRNA発現量は、S1P処理によってさらに増加した。さらにS1PはPam3CSKによって増加したIL-6転写活性をさらに増強させることが明らかとなり、その亢進にはIL-6プロモーター領域上に存在するCREが必要であることが見出された。そこでCREの上流に位置するPKAの阻害剤であるH-89を添加、及びPKAを活性化することが知られるGsをRNA干渉法にてノックダウンしたところ、いずれの場合もS1PによるIL-6産生亢進増強が有意に抑制された。また本現象がex vivoでもみられるかどうかマウス回腸切片を用いて険討した結果、Pam3CSKによるIL-6mRNA発現亢進はJTE013によって有意に抑制された。これよりS1P2はマウス腸管においてもTLR1/2によるIL-6亢進に関与しており、S1P2は腸炎症状亢進に関与していることが示唆された。並行して、S1P2活性を制御する食品成分の探索評価系を構築することとし、S1P2発現ベクター及びCRE応答レポーターベクターを安定にHEK293細胞に導入したS1P2活性化能評価細胞系の構築に成功した。
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