酸素漂白過程において多糖類は酸素に対して抵抗性を持ち、その分解は主としてリグニン中のフェノール性部位と酸素との反応によって二次的に生成する活性酸素種(AOS)が引き起こす。この反応を機構的に解明するのが、本研究の目的である。本年度においては、多糖類のアノマー位に注目してこの機構を検討するため、多糖類のモデル化合物methylβ-D-glucopyranoside (MGPβ)と、これとアノマー位立体配置の異なるmethylα-D-glucopyranoside (MGPα)を、フェノール性化合物と共に酸素漂白条件下で処理した。その結果、MGPβの方が速く分解され、アノマー位立体配置の相違が、フェノール性化合物と酸素との反応で生成するAOSとこれらモデル化合物との反応に影響を与えることが明らかになった。さらに、実際にアノマー位がAOSによって攻撃されるかどうかを検討するため、MGPβとアノマー位に重水素を持つmethylβ-D-(1-^2H)glucopyranosideを、フェノール性化合物と共に酸素漂白条件下で処理した。その結果、MGPβの方が速く分解され、速度論的同位体効果が観測されたため、実際にAOSによってMGPβのアノマー位水素が引き抜かれることが示唆された。一方、MGPαとアノマー位に重水素を持つmethylα-D-(1-^2H)glucopyranosideを、フェノール性化合物と共に酸素漂白条件下で処理したところ、これらの分解はほとんど同程度であり、MGPαのアノマー位水素はAOSによって引き抜かれないことが示唆された。これらの結果は、MGPβのアノマー位炭素-水素結合が、立体電子効果によって、水素引き抜き反応に対して比較的活性化されているという事実よって、合理的に説明される。
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