研究概要 |
本年度では, 水温変化実験によりクロマグロ仔魚の酸素消費量を測定し, 水温上昇に対する本種仔魚の応答機構を解明することを主眼に研究を遂行した。(独)奄美栽培センターにおいて008年7月5から8日に4歳魚生け簀で産卵された卵を用いて実験を行った。採卵後速やかに5温度区(30, 28, 27, 26, 24℃)に設定されたインキュベーター内に収容した。 産卵20時間後から約2時間おきに卵を観察し, 死卵・孵化仔魚を計数し, 孵化率および孵化完了までの時間を算出した。各水温の海水中溶存酸素濃度は,自動滴定装置を用いて測定した。酸素消費量は, インキュベーター内に設置された酸素瓶内で仔魚を一定時間飼育し, その溶存酸素濃度を仔魚収容前の値と比べることにより算出した。 孵化率は26-28℃で90%以上と高かった。反対に, 24℃と30℃では, 孵化率は70%に留まった。産卵から孵化までにかかる時間は温度が高いほど短く, 24℃では30℃に比べ孵化までに約8時間長くかかった。海水中の溶存酸素濃度は24℃で5.037mL/Lと最も高く, 27-30℃では変動が見られるものの, 平均で約4.9mL/L以下に減少した。また, 本種仔魚による酸素消費量の最大値は, 24℃で最も低く, 水温上昇に伴い高くなった。 水温24℃付近では, 核酸比と酸素消費量の値がともに低いこと, また孵化までに要する時間が長いことから, 水温が仔魚のタンパク質合成を抑制するために成長が遅滞している可能性がある。水温26〜27℃では, 酸素消費量の値が中程度であるにもかかわらず、核酸比が高いことから、適度な呼吸量の範囲で効率的成長が促進されていることが認められた。一方で、水温28℃以上の高水温区では、酸素消費量最大値は高く核酸比の値も大きいことから, 温度上昇により呼吸量が増え, タンパク質が活発に生成されている様子が認められた。しかし、その温度区での生残が著しく低かったことから、この温度での高代謝活性はむしろ生残に悪影響を与えている可能性が示唆された。理由として、高水温が生残を阻害する異常タンパク質を生成している可能性も考えられるため、高水温区で生成されているタンパク質の特定を行うとともに、高水温が孵化直後から開口期までの仔魚の代謝量に与える影響を飼育実験により明らかにする必要がある。
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